東京科学大学における福島復興・再生研究

はじめに

東京電力が進めている福島第一原子力発電所(1F)の廃炉では、燃料デブリの取り出し・保管・処分や、処理した経験のない様々な放射性廃棄物の保管・処分など、これまでにない課題が提起されている。これらの課題の解決に対して、従来の原子力技術に加えて幅広い分野の技術を融合させた「フロンティア技術」が必要である。東京科学大学(略称 科学大、前 東京工業大学、2024年10月改称)のゼロカーボンエネルギー研究所では、前身である原子炉工学研究所の時代から半世紀にわたって原子力基盤技術の開発に取り組んできたが、それに加えて1F廃炉の推進に必要な技術を全学から取り入れることで、2011年の1F事故で被害を受けた福島の復興に必要なフロンティア技術の開発を進めている。著者は、これらの研究活動を統合して2020年4月に「福島復興・再生研究ユニット」を創設した [1]。この研究ユニットでは、1Fの廃炉推進に留まらず、1F事故で被害を受けた福島県の復興再生に必要な課題全般を解決することを目的としている。
ユニットの目的は次の3点である。

  1. 汚染水処理、燃料デブリ取り出しを含む1Fの廃炉の推進
  2. 1F事故により環境中に放出された放射性セシウムの広域汚染問題の解決
  3. 1F事故で疲弊した福島沿岸地域のイノベーション・コースト構想に基づく産業再生

福島復興・再生研究ユニットの構成

図1に研究ユニットの構成を示す。研究ユニットが発足して5年が経ち、これまでにユニット内に4つの研究グループを設置した。各グループの研究内容は以下の通りである。

第1研究グループ

本ユニットの主要な研究活動である「TEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点」を運営している。東京科学大学の教員・学生(延38名)と東京電力技術者(延17名)が1Fの現場ニーズと東京科学大学の研究力を連携させることで、1F廃炉推進に必要な基盤技術を研究している[2][3]。この研究拠点については研究拠点と推進ページで詳細に説明する。

第2研究グループ

第1研究グループの協働研究拠点において1Fサイトへの適用性の高いと評価された技術をピックアップし、経済産業省の国プロ「廃炉・汚染水・処理水対策事業」[4]あるいは東京科学大学発ベンチャーによる実用化研究を実施している。また、1F事故では1号機から3号機の原子炉がメルトダウンを起こし、放射性物質の閉じ込めができず、核分裂収率が高くかつ高温で揮発しやすい放射性Cs、即ち134Cs(半減期2年)、137Cs(半減期30年)が環境中に放出され、それら放射性核種による広範囲な土壌汚染が起こった。

第3研究グループ

環境省の「除去土壌等の減容等技術実証事業」により、放射性Csで汚染された土壌からのCs回収・固定化研究を行っている[5]

第4研究グループ

福島復興再生後を見据えた原子力政策研究を行っている。1F事故後、原子力産業は凍結した状況となり、2021年に策定された第6次エネルギー基本計画では「原子力の依存度を可能な限り低減する」方針が示されたが、2050年カーボンニュートラル達成には原子力のような脱炭素エネルギーが不可欠であり、第7次エネルギー基本計画では、安全第一を前提に原子力エネルギーの利用が進められていくものと思われる。そうした状況下で既設炉の再稼働や革新炉の建設・稼働が原子力システム全体に与える影響を、動的核燃料サイクルシミュレータを使って解明している。

福島復興・再生研究ユニットの構成
 

本ウェブサイトでは東京科学大学に設置された「福島復興・再生研究ユニット」の第1期(2020年度~24年度)の研究活動について述べている。東京科学大学の教員・学生が延38名、東京電力技術者が延17名と、多くの方々に支えられてここまで研究を進めることができた。研究ユニットは5年間の延長が予定されており、2025年度からの第2期では1Fサイトに研究拠点を設置するなどして現場実装可能な技術開発を更に推進し、1F廃炉完了に向けて東京科学大学の研究力を存分に発揮していきたいと考えている。

参考文献

お問合せ先

東京科学大学特任教授 / 名誉教授 / ユニット長

竹下 健二


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