福島復興・再生研究ユニットの実績と将来への展開

大学発の現場実装技術を目指して

協働研究拠点で実施された研究のうち1F現場実装が期待される課題については、経産省の「廃炉・汚染水・処理水対策事業」あるいは東京科学大学発ベンチャーで実用化研究が実施されている。更に、開発技術の現場実装を確実なものにするために、2025年度からの本研究拠点の第2期では1Fサイトでの実証研究も計画されている。本節では、そうした現場実装が期待される技術として、廃棄物処理研究の中から「ALPS沈殿系廃棄物の安定固化研究」と環境修復研究の中から「高性能空気浄化システムによる廃炉作業の被曝低減」についてこれまでの実績と今後の展開を述べる。

1. ALPS沈殿系廃棄物の安定固化研究

本研究では、ALPSの前処理工程として設置された炭酸塩沈殿工程と鉄共沈工程から発生する大量のスラリー廃棄物をリン酸塩セラミックスとして安定固化する技術を開発している。2019年度に文科省の英知事業に採択され、2021年度までの3か年基礎基盤研究を進めてきた。その間に固化体製造法として、沈殿法および一軸圧縮焼成法を開発し、図4に示すようなリン酸塩セラミックス固化プロセスを提案した。このプロセスによって炭酸塩スラリーと鉄共沈スラリーの主要カチオン成分であるCa2+、Mg2+、Fe3+に加えて主要放射性物質であるSr2+をほぼ全量リン酸塩セラミックスの構造体に安定固化することに成功している[9]
更に2022年度より2年間、「TEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点」において、今後の適用性拡大を考慮した模擬スラリー(90Srの他、α核種(241Am、U)を添加)によるセラミック固化を実施した。Srだけでなく、α核種に対しても高い耐水性を示す安定固化体を製造することができた。
以上の成果から、本研究は2024年度より経産省「廃炉・汚染水・処理水対策事業」に採択され、日立GEとの共同研究によって20L規模の実固化体製造プロセス構築にその歩みを進めている。

ALPSスラリーのリン酸塩セラミックス固化システム
2. 高性能空気浄化システムによる廃炉作業の被曝低減に関する研究

本研究は、廃炉作業の進展に伴い作業員の被ばく低減を目指した空気浄化システムの構築を目的としている。この研究は2015年に文科省英知事業に採択されており、2017年度までの3か年基礎基盤研究を進め(事後評価S)[10]、更に2020年~24年に経産省「原子力産業基盤強化事業補助金」で空気浄化システムのプラント化を進めるなど、しっかりとした基盤技術を確立している。2023年より東工大(現科学大)発ベンチャーであるGXエネジー社(代表:奈良林直)の下で「TEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点」に参画頂いている。図5には空気浄化システムの構成を示す。このシステムは、高性能スクラバー、金属ファイバーフィルター、銀ゼオライト(AgX)を使ったヨウ素フィルターからできており、トラックの荷台に設置できる程のコンパクトな装置で高性能な空気清浄が可能である。基盤技術の完成度は高く、今後は1F現場実装のために、現場環境にこのシステムをどのように適用させていくのかが課題となる。今後の展開に大いに期待している。

廃炉作業の被爆低減を目指した高性能空気浄化システム